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【ウォーターマン】英国製「515D」(1950s?) + 幻のボタン・フィラー式 & レストア編

【WATERMAN】Button Filler “515 D” (1950s?) Made in England.

今回は大変貴重でレアなモノを入手してしまいました。正直、私自身このペンの詳細を説明できません。1950年前後に何を血迷ったか英国ウォーターマン社は一部のモデルでボタン・フィラー式万年筆の製造を始めました。しかしどういうワケかすぐに販売中止となり、結局量産されること無くフェード・アウトしていったようです。実際市場に出回ったペンはごく少数で、またどれくらい生産されたかも全く判りません。以下、軽~い検索でヒットしたリンク先を2つ掲載いたしますので読んでみてください。残念ながらこのペンの情報についてはこれくらいしかないので信憑性や事実確認の判断は各人にお任せします。

http://www.fountainpennetwork.com/forum/topic/194142-waterman-button-filler/

上記の記事をザックリ読むと著名な「万年筆本」で紹介はされているようですが、写真だけ掲載されていてペンの詳細や説明は一切無かったようです。ただFPNに投稿された写真を見ると他にも「510VD」や「511D」、そして「515」と同じデザインの「515D」などのモデルもあるようですね。まずは現物の写真から……。

waterman_515d_01 waterman_515d_02 waterman_515d_03

※何でこんなモノを販売しようとしたのですかねェ~~!?

❏外観及びディテール

上の写真の通りグレー軸でキャップのデザインは「モダン・アールデコ」クリップ&金メッキの五重リング仕様。この五重リングは少々やり過ぎかなと思いますけど、まァ~これはこれで良しとしましょう。(笑)重さやサイズは「515」とほとんど変わりは無いのですが、胴軸が若干太めで12mm強あるので全体的に妙な貫録やオシがありますね。またクオリティや作り込みも上々で、仕上がりも良く出来ておりチープ感は微塵もありません。

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※コンベンショナルなNo.5ニブ。ペン先はフレックスで筆圧を加えると簡単に開きます。

ペン先の特徴は「515」と同じENGLAND刻印が入った初期型No.5ニブですが、こちらは(但しペン芯のデザインが変更されています)フレックス仕様となっております。筆圧をコントロールすることで極細~中太程度まで自由に線の太さを変えられます。ただ私自身フレックス・ニブの扱いに慣れていないのでコントロールしきれておりません。下の写真は「515」と「515D」を比較したものです。

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※「515」と「515D」の比較。ハート穴が巨大でニブの厚さが薄いですね。(写真中央・右)

上の写真の通り、ニブのハート穴の直径が「515」と比べて2倍以上大きい上に横顔を見るとフレックスの方が全体的にニブの厚さが薄いですね。こういった仕様は以前紹介した「ステイツマン・フレックスニブ」と同じような成り立ちになっているようです。このようにいろいろ細部を突き詰めると「515」を名乗ってはいるものの全く別のペンのようですね。

❏レストア編

レストアの方は決して順調とは言えませんでした。こういった製造数の少ないものや量産されなかったものはパーツが欠損・破損していると修復やリプレスが難しく、最悪ゴミとなるリスクは常にあります。まァ~運が良くても作業途中にワナが一つ・二つあるのが当たり前で、今回もやはりそうでしたね。(笑)幸いにもオリジナルパーツの欠損や破損はありませんでしたが、下の写真の通りプレッシャー・バーのリーチが足りず(66mmの汎用プレッシャー・バーが付いていました)これではインクの吸入はおろか、ボタンをプッシュしてもプレッシャー・バーが動作しないのは歴然ですね。さすがにこればかりはなす術がありませんでした。組み上げる寸前まで全くそれに気づかない私も相当アホでしたが……!

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※サックの接着が終った後、プレッシャー・バーが短いことに気づきました!

解決方法は二通り。汎用の84mmプレッシャー・バーを適切なサイズにカットするか、もしくはジャストサイズのプレッシャー・バーを探し出すしか方法がありません。しかしプレッシャー・バーをカットすることに何故か気乗りがせず、ジャストサイズを探すことにしました。こういう時こそ eBay ですね。運が良いのかタイミングが良かったのかは判りませんけど、すぐに見つけることができました。

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※サイズがバラバラな10本入りアソートを発見。

上の写真から(すでに一本抜き取っております)長さの違うプレッシャー・バーを数本試した結果、「74mm」がジャストフィットしました。特に加工やカットなどの作業は必要なく、オリジナル状態のまま使用可能だったのでホッとしました。下の写真がそれです。

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※ジャストフィットしました。どこのメーカーのプレッシャー・バーかな?

その後、水道水で吸入テストを行いボタン動作を確認してやっと作業は終了しました。完成までに約3週間費やし、いろいろ紆余曲折があったものの終わってみれば動作はすこぶる快調、レストアも十分以上楽しんだので大満足しております。そして完成したペンを使ってみるとボタン・フィラー式とはいえ、タッチや書き心地はやはりウォーターマンそのものでしたね。最後に1950年前後という時代を冷静に見つめるとパーカーはボタン・フィラー式に見切りをつけて徐々にエアロ・フィラー式に移行していく過渡期であり、シェーファーに至ってはタッチダウン式がデビューした頃に当たりますね。そんな時期に今さらボタン・フィラー式とは……!?良し悪しは別として、当時のウォーターマンの混迷・混乱ぶりを体現しているようなペンでした。

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