「ショートハンド・ニブ」とは何か?
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最終更新日:2018/10/06
01-万年筆紹介, 05-ペン先, 06-ショートハンド・ニブ
【Shorthand Nibs】
「ショートハンド(速記)」とは「速記文字や速記符号とよばれる特殊な記号を用いて言葉を簡単な符号にして、人の発言などを書き記す方法」(※WIKIPEDIAより抜粋・転載)のことを言い、英語圏では「グレッグ式速記」がポピュラーでその速記方法のテキストが19世紀後半から売られており(現在も売られているのかどうかは不明、中古本はeBayでよく見かけます)伝統的な速記方法として一般に浸透していたようです。またこれ以外の速記方法も複数あるようです。言うまでもないですが言語の数だけそれぞれ速記方法はあると思いますが…。しかし時代と共に「速記」から「録音」にシフトしていき、カセットテープの時代を経て現在はICレコーダーあるいはスマートフォンなどの録音機能を使うのが主流のようです。万年筆全盛期の1930年代~60年代半ば頃まで各社「速記用」のペン先をラインナップしていた時期があり、グレッグ社のオフィシャルを受けたものやそうでないものも含めシェーファーやエスターブルックは「ショートハンド(Shorthand)」、ウォーターマン・パーカー・ウェアエバーなどは「ステノ(Steno)」とか「ステノグラフ(Stenograph)」と呼ばれれていたニブがそれで他のペン先と区別して販売されていたようです。海外サイトの情報やショップのお話しをザックリまとめると、どうやら速記に「特化」したペン先ではなく、速記に「向いた」ペン先だったようです。
※エスターブルック「Renew-Point」ニブのbox側面に印刷されているグレック速記符号。
「ショートハンド・ニブ」の特長ですが、字幅は概ねXF~FINEの中間ぐらい(中にはそうでないものあるが……)でインクの流れ(フロー)がいい割に比較的細い字が書けるという特徴をもっているようです。実際使ってみると早書きや殴り書きをしてもインクが途切れたり擦れたりすることは滅多にありません。またペン先やペン芯に特別な仕掛けなどは見当たらず、他の字幅のペン先やペン芯と同じものに見えます。おそらくインクの流れ(フロー)をコントロール(調整)しているのではないかと感じております。マぁ~、現代の技術をもってプロのペン先調整師さんの手にかかれば「ショートハンド・ニブ」と名を打たなくとも調整で何とかなるのかもしれませんね。
※私が所持している「ショートハンド・ニブ」付いたペン。左側より3本はシェーファー”Tip-Dip タッチダウン”「カデット」と「クラフツマン」の”G1″鉄ニブ、4本目「タッチダウン・バリアント(FAT)」、5本目「タッチダウン・タッカウェイ・ステイツマン」、6本目「タッチダウン・アドミラル」、7本目「タッチダウン・クラフツマン(14k)」、8本目「スノーケル・ステイツマン」、9本目はエスターブルック「No.1555 GREGG」、10本目「No.9555」。
グレッグ社のオフィシャルを受けたものはシェーファーであれば上の写真で確認できますが首軸に「リ」の刻印が入るようです。但し、「G1」鉄ニブについては「リ」の刻印が無くオフィシャルを受けたかどうかは不明です。一方エスターブルックで唯一オフィシャルを受けたニブは「No.1555 GREGG」のみで「No.9555」はメーカー独自に「ショートハンド・ニブ」(速記に向いたニブ)として販売されたもののようです。このようにグレッグ社のオフィシャルを受けて首軸・胴軸あるいはペン先にグレッグの刻印が入っているものは1950年代頃までで60年代以降は見かけません。60年以降発売された「インペリアル・シリーズ」や「ドルフィン」などにもショートハンド・ニブは存在しているのですが(もしかしたらオプション扱いだったかもしれません)オフィシャルを受けたかどうかは不明です。こうして60年代後半には販売数と需要が減ったのか各社の「ショートハンド・ニブ」はラインナップから消え始め、70年代に入ると完全に製造・販売は終了してその使命は終えたようです。さて、話は変わって現在このようなペン先を欲しがるユーザーがいるのかというと、海外のペンショップによると(愛好家&コレクターさんたちはいうに及ばずですが…)中字(M)がメインのヨーロッパでも「XFほど細いものはいらないが、FINEより少し細めの字幅がほしい」という一定のユーザーは存在するらしく、また細字の割にインクフローが良いのでそこそこの需要・流通はあるようです。細字は好きだけど「カリカリ感」が嫌いな方には選択肢の一つかもしれませんね。私はというと結構気に入っているんですよね、このペン先が。持ち歩き用のペンとしてはイイ線いってますね。もちろん速記の知識などありませんが……。今となっては使用する上でグレッグ社のオフィシャルを受けたかどうかはあまり気にする必要はないような気がします。最後に「ショートハンド・ニブ」についてはまだまだ分からないことが多く今後も研究継続ということで……。
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