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【シェーファー】 「スノーケル サラトガ」(c.1952-59)+ショートハンド・ニブ&レストア編(ウンザリ!!)

【SHEAFFER】”Snorkel Saratoga” (c.1952-59) + “Shorthand nib” made in U.S.A.

今回はあまり気が進まなかった「スノーケル」のレストア編です。比較的珍しい「ショートハンド・ニブ」付のモデルでしたのでどうしても復活させたいと思い進めてまいりました。まずはレストア後の写真からご覧ください……。

  

※胴軸の刻印に4桁の数字が入っているので1955年以前のモデルかな?

さて、最低のレストアの始まりです。まずはスノーケル・システムの状態と確認のためバラしてみると、衝撃的な光景が目に飛び込んできました。「これ…、使えんがな~!」

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※このサックプロテクターは使えません!!

写真右の通り丸型バネ受けの金属の位置が本来あるべき位置から大きくズレており、これではインクの吸入はできるものの、バネ圧が高くなるので各パーツに余計な負荷がかかり最悪胴軸にクラックが入る可能性がありますね。しかもこのバネ受け金属は熱膨張を利用して移動させようとしてもビクとも動きません。またプロテクターを万力などで固定して無理に移動させようとするとバネ受け側の金属が薄く弱いので(過去の経験から)すぐに変形してしまいます。仕方ありませんがこのプロテクターの使用を諦めることにしました。次にせめてニップルだけも取り出そうと思い沸騰したお湯の中に数分間つけ置きしてみましたが、これも願いかなわず全く動く気配すらありませんでした。おそらく瞬間接着剤などでニップルを接着したのでしょうね……、本来ならここは次のインクサック交換を想定して融解温度の低いニカワベースのシーラントを使うか、或いは70℃~100℃で融解するシェラックを使うのが一般的です。これも取り出すことを諦めることにしました。仕方ないのでスノーケル・チューブとバネを取り外すことにしました。「とりあえず動けば良い」と言う典型な素人修理の見本みたいな状態でしたね。トホホ……。

※上写真左がシーラント。シェラックより融解温度が低く65℃~70℃程度らしいです。

これだからスノーケルの修理が嫌いなんですよ……、まァ~愚痴ばかり言っても進みません。しかしここはレストアラーの端くれの一人として「持ってますよ、持ってますとも。リプレイス用パーツとしてのサックプロテクターもニップルも!」。

 

※写真の通りリプレスが完了しました。ついでにガスケットも交換しました。

ここからは写真はありませんが、この後スノーケル・チューブの長さや向きを調整しつつバネを装着してペンを組み上げていきます。しかしここでまた問題が……!! 尻軸を回してスノーケル・チューブが出てくる時のスムーズさに欠け、何やら今まで聴いた事が無い「パリッ、パリッ」という乾き切った異音が……。すぐにバネだと直感しましたが弾力性はまだ残っているものの、バネ全体が乾き切っており重さも異常に軽いことに気が付きました。どうやら完全なドライアップ状態のようでシリコングリスを塗ったところで解決できそうにありませんでした。「これも…、使えんがな~!」 しかしここもレストアラーの端くれ者として「持ってますよ、持ってますとも。リプレイス用のバネも!」。……ということで新品のリプレイス用バネに交換してやっと正常に動作することができました。もうここまで来て気持ち的には「ウンザリ!」でしたが何とかやり遂げました。結局、使えたパーツは「スノーケル・チューブ」のみ!ここいら辺りが「スノーケル恐るべし」ですね!!

■ディテール

このショートハンド・ニブもトライアンフ型(樽ニブ)に存在していることは知っておりましたが、オープン・タイプにも存在することは知りませんでした。試筆した第一印象はやはりシェーファーのショートハンド・ニブらしい特徴が随所に感じられ、フロー感とインクの流れの良さは健在でいつも感心させられますね。「純粋に書く」(スノーケルということを除けば)という観点で見れば完成度や書き心地は申し分ないと思います。そしてこれは全くの個人的感想ですがオープン・タイプ・ニブは癖が無く、素直で極々平凡な実用的なペンに感じられ、私的にはこちらの方が好みです。……が反面、面白みはありません……。逆にトライアンフ型(樽ニブ)のスノーケルも悪くは無いのですが軸が細くて長いせいか、安定感も含めトライアンフ・ニブの良さを十分に発揮できていないように感じられます。この程度の書き心地なら “FAT-Touchdown” のドッシリとした重みを感じるトライアンフ・ニブの方がそれらしいような気がします。あくまでも個人的感想ですが……。

  

※ペン先に薄っすらと残る「G3」刻印と首軸部分「リ」の彫り込み。

 

※スノーケル・チューブの向きの調整も重要です……。

最後にこのようにスノーケルの修理は一筋縄ではいきません。今回のようなトラブルは一般的に言って常識的なレベルであり、特別珍しいことではありませんので修理に慣れてない方々やレストアラー初心者にはスノーケルの修理はお勧めできません。どうしても修理したい或いは興味があるという方々にアドバイスするとすれば、先ずはペン本体よりも各パーツを集めることから始めた方が良いと思います。新品であれ、ジャンク品であれ、消耗品であれ手元に必要最低限のリプレイス用パーツは持っていた方が良いと思います。レストアを進めていくと今回のようなトラブルは大なり小なり必ず発生すると思います。またレストアをするのであれば修理コストが高くなる上に、出来上がったブツがニコイチ・サンコイチとなる可能性を十分肝に銘じてください。何れにせよ、以前紹介したシェーファー・スノーケルの記事を今一度ご参考ください。いつものレストアを終えた後の「満足感」や「達成感」はこの「スノーケル」に限ってはあまり感じられないかもしれません。これなら大枚叩いてレストア済のブツやデットストック状態のブツを探すのもアリかな?と思ったりもしますね。とは言え、この度はショートハンド・ニブ仕様というちょっと珍しいモノだけに修復して良かったと思いたいですね。その後は問題も無くとても快調に動作しておりショートハンド・ニブのタッチを楽しんでおります。以上スノーケルの事、辛口でしたがご参考までにどうぞ……。

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