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【ウォーターマン】「リーニュ 60」(c.1960s) エアロメトリック・フィラー式レストア編

【WATERMANS】”Ligne 60” (Line 60) Aerometric Filler (c.1960s)

今回はウォーターマン製のエアロメトリック・フィラー式(エアロ・フィラー式)のレストア編です。エアロメトリック・フィラー式は金属管の中にシリコンサックやゴムサックが入っており、それを金属のレバーで数回押してインクを吸引する方法が一般的でパーカー21や51が有名ですね。吸引原理はレバー・フィラー式とほぼ同じで、違いは胴軸内部で金属管とレバーがユニット化しているのでレバー・フィラーのように胴軸外部に「レバー」はありません。表現は適切じゃないかも知れませんが「原始的なコンバーター」ですかね……?

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※レストア前の状態で外観マズマズ、吸引不可という状態。

❏エアロメトリック・ユニットの分解

まずはユニット化されているエアロメトリック機構を分解・洗浄するところからスタートします。かなり丈夫な作りをしている上に各部位が硬いのでセクション・ツール(プライヤー)やグリッパーを使い首軸から金属管を分離していきます。金属管を外すとインクサックが剥き出しになりそれを外します(インクサックは破けたり、裂けたりしても問題ありません)。次に難関の「ニップル・ジョイント」をどうやって首軸内部から取り出すかでした。最初はピンセットで取り出そうとしましたが何やらベッタリと固着しており外れません。仕方ないので1~2時間ぬるま湯に首軸ごとドブ漬けすることにしました。首軸内部を観察すると首軸内部とニップル・ジョイントにわずかに隙間があることを発見して、この隙間に「パイロットの空カートリッジ」を差し込むことを思いつきました。何とサイズはドンピシャでした(写真下・中央)。こうしてカートリッジの先端を押し込んでニップル・ジョイントを引き抜きます(写真下・右)。下の左側写真がユニットの分解・洗浄終えた状態になります。

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※分解・洗浄後のエアロメトリック・ユニット(写真左)、ボケボケですが首軸内部(写真中央)。真ん中はインク溝のヤリ。ニップル・ジョイントの引き抜きイメージ(写真右)。

❏インク溝の詰まりとカスの除去

ここまでやって吸引テストを行いましたが、やはり予想通り首軸内部のインク溝が詰まっておりました。先の「C/F」の場合と同じくプラチナ万年筆「万年筆クリーナーセット」を使い、濃縮二倍で24時間ドブ漬けしてやっと無事に貫通しました。下の写真は洗浄液を洗い流した後、さらに水に晒している状態です(半日程度)。これでやっと一連の分解・洗浄作業が終わりました。

IMG_0819-02

❏組み立てと復元、そして意外な事実が……

分解・洗浄が終わりいよいよ組み立てと復元に取りかかります。まずは新しいインクサックを用意し(写真下・左側)サイズを確認します。インクサックをカットしたらニップル・ジョイントにシェラックを塗りインクサックを接着(写真下・中央)したら30~60分程度放置します。サックにはレバーフィラー式やタッチダウン式同様にニップル部位にワセリン、それ以外の部位にはシリコンスプレーを綿棒で塗ります。その間に金属管の内部をチェックしましたが、面白いことにレバーはドアを開閉(写真下・右側)するような動きをしてそれと連動するように内部のステーがサックを潰しつつ、さらに少し捻じって吸引するようでした。レバー・フィラー式とツイスト・フィラー式が合体したようなユニークな構造のようですね。あとは接着が完了したインクサック付きのニップル・ジョイントを首軸内部のヤリに刺してさらにその上から金属管を首軸方向にゆっくりと刺し終えれば作業完了となります。と、同時に意外な事実に気が付きました……!?

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※ボケボケですがエアロメトリックの金属管を首軸側から覗いた写真(写真右)。

「ちょっと待てよ~、首軸内部に「ヤリ」(写真下・右側)があるということはカートリッジやコンバーターも刺さるのではないか?」と思いついて早速「C/F」用のカートリッジとコンバーターを取り付けて(写真下・左側)みました。実際インクを吸入して試し書きしてみましたがカートリッジ、コンバーター共にインク漏れの心配はなく普通に使えました。「いや~~、驚きました!」なんとカートリッジ、コンバーター、そしてエアロメトリック金属管(写真下・左側)の3つが使えるんですね~。凄い(クール)です!!

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※上からC/F用「コンバーター」、「カートリッジ」と「エアロメトリック金属管」(写真左)

さて、ペン本体ですがクリップに「WATERMAN」ではなく「WATERMANS」と刻印されている上、ペン先に「14CTs」と刻印されているのでフランス製ではないのは想像に難くないですが、おそらく英国製かカナダ製ではないかと想像しております。入手時はモデル名不明なまま購入しました。その後古いフランス語の雑誌に掲載されていたウォーターマンAD(写真下・左側)の切り抜きを入手、モデル名が判明した次第です。情報量はかなり薄いのですがモデル名は「リーニュ60」(Ligne 60、英語名は”Line 60″)と言い、50年代後半~70年代前半頃まで10年以上製造・販売された長寿モデルのようです。ペン先は「フーデットタイプ」、「オープンタイプで小型ニブのNo.2」それとこのペンの「オープンタイプでスタンダードサイズ・ニブのNo.3」(写真下・中央及び右側)の3種類のニブ、本体仕様は「プラスチック軸&キャップ」、「プラスチック軸&金属キャップ」、「金属軸&金属キャップ」などが用意され、ペン先の種類と本体の仕様さらに軸色を合わせて下記の広告にうたわれているように70種程度の組み合わせがあったようです。下のADには「18 carats」と記載されておりますのでフランス製でしょうね。

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※字幅は細字(FINE)のようです。

構造的・機構的に50年代のインクサックを使用した吸引方式から60年代以降のカートリッジ/コンバーター式へ移行していく過渡期の様子が判りやすく作られており、歴史的に興味深いモデルですね。全体の雰囲気は素っ気ないほどシンプルな実用万年筆ですが「如何にも60年代」という感じが「◎」です。ガチニブでインクフローが良く、字幅も細めなうえ元々外観の状態が良くきれいに仕上がったので大満足です。軸の直径は少し細いですが、長さはキャップを閉めて約13.3cmでシェーファーステイツマン(FAT)と同じなので違和感無く手に馴染んでいます。このペンをどう使っていくかこれからが楽しみです。インクサックサイズは#16s。カートリッジ/コンバーターを使用すればメンテは容易。

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※外観はきれいに仕上がりました。

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